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横浜地方裁判所 昭和50年(行ウ)17号 判決 1980年8月11日

横浜市旭区鶴ケ峰二丁目六〇番一号

原告

瀬沼豊子

同所同番地

原告

瀬沼

右原告ら訴訟代理人弁護士

瀬沼忠夫

右訴訟複代理人弁護士

山口裕三郎

横浜市保土ケ谷区帷子二丁目六四番地

被告

保土ケ谷税務署長 中里恒曠

右指定代理人

野崎悦宏

篠田学

木暮栄一

白井文彦

石井宏

三好毅

小沢英一

洒井和雄

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  被告が原告らの昭和四八年分所得税についていずれも昭和四九年一〇月三〇日付をもってなした更正処分並びに過少申告加算税賦課決定処分(以下「本件処分」という。)を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告らは夫婦であるが、原告瀬沼豊子(以下「原告豊子」という。)は別表1(一)(二)記載の土地(以下「本件土地」という。)につき共有持分四分の三、原告瀬沼(以下「原告」という。)は共有持分四分の一の割合で昭和四二年一月一日以前に取得した。

2(一)  本件土地は、昭和四八年一一月七日神奈川県収用委員会(以下「収用委員会」という。)により、別表1(一)記載の土地(以下「収用地」という。)につき収用、同表(二)記載の土地(以下「残地収用地」という。)につき残地収用(いずれも権利取得又は消滅の時期同年一二月八日)の裁決(以下「本件収用」という。)を受け、同裁決により、原告らはその項別表2(一)(二)譲渡価額欄記載のとおりの補償金の支払を受けた。

(二)  ところで、土地収用等の場合の譲渡所得については、租税特別措置法(昭和五〇年法律第一六号による改正前のもの・以下「法」という。)第三三条の四第一項の規定により長期譲渡所得の特別控除額は二〇〇〇万円とされている。

3(一)  原告豊子は、昭和四八年には本件収用による補償金の外に所得はなかったので、昭和四九年三月一一日、昭和四八年分所得税について、別表2(一)申告額欄記載のとおりの分離長期譲渡所得の申告をし、かつ収用委員会の裁決書を添付して法第三三条の四第一項の特別控除をなし、昭和四八年分所得金額零の確定申告をした。

(二)  原告鐐は、昭和四八年中に本件収用による補償の外に給与所得三五三万〇九八六円があったので、昭和四九年三月一一日昭和四八年分の所得について、右給与所得と、本件収用による補償金について別表2(二)申告額欄記載のとおりの分離長期譲渡所得の申告をし、かつ収用委員会の裁決書を添付して右譲渡所得につき法第三三条の四第一項の特別控除をなし、別表3申告額欄記載のとおりの昭和四八年分所得税の確定申告をした。

4  しかるに、被告は昭和四九年一〇月三〇日付をもって原告豊子に対し納付すべき本税の額一〇一万九二〇〇円の更正処分及び過少申告加算税五万〇九〇〇円の賦課決定処分をなし、また原告に対し納付すべき本税の額三七万八四〇〇円の更正処分及び過少申告加算税一万八九〇〇円の賦課決定処分をした。

5(一)  しかし、本件処分は法第三三条の四の規定の適用を誤ってなされた違法のものである。

(二)  そこで、原告らは、昭和四九年一一月二九日被告に対し本件処分に対する異議の申立をしたが、被告は、昭和五〇年二月二八日右異議申立を棄却する旨の決定をした。原告らはさらに、右決定に対し昭和五〇年三月一九日国税不服審判所長に対し審査請求をしたが、同審判所長は三か月を経過するもなおこれに対して裁決をなさない。(なお、本訴提起後昭和五一年二月九日審査請求を棄却する旨の裁決をした。)

よって、本件処分の取消を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2(一)(二)の事実は認める。

3  同3(一)(二)の事実は認める。

4  同4の事実は認める。

5(一)  同5(一)の主張は争う。

(二)  同5(二)の事実は認める。

三  被告の主張

1  本件処分の経緯

(一) 原告豊子について

(1) 原告豊子は本件収用につき、別表2(一)記載のとおり本件土地の収用によって得た譲渡価額から取得費を差引いた譲渡所得を得た。そのうち残地収用地分については、原告主張のとおり法第三三条の四第一項の規定による特別控除が適用されるが、収用地分については、最初に買取り申出があった日である昭和四五年一月二〇日から六か月以内に収用地の譲渡がなされなかったから、同条第三項第一号の規定により同条第一項の規定の適用が排除され、右特別控除の適用はなされないことになるので、右収用地分七〇〇万二八三〇円(譲渡価額七三七万一四〇〇円から取得費三六万八五七〇円を控除したもの)が譲渡所得の金額となる。

(2) そして、右譲渡所得の金額七〇〇万二八三〇円から基礎控除二〇万七五〇〇円を差引き、国税通則法第一一八条第一項の規定を適用して一〇〇〇円未満の金額を切り捨てた六七九万五〇〇〇円が課税所得金額となり、右は分離長期譲渡所得であるから所得税額は一〇一万九二〇〇円となる。

(3) また、原告豊子は、その主張のとおり、所得金額零の確定申告をしたから、国税通則法第六五条第二項の規定により過少申告加算税五万〇九〇〇円を納付すべき義務がある。

そこで被告は、原告豊子に対し本件処分をしたものである。

(二) 原告について

(1) 原告は、本件収用について別表2(二)記載のとおり譲渡価額から取得費及び譲渡費用を差引いた譲渡所得を得た。そのうち残地収用地分については、原告主張のとおり法第三三条の四第一項の規定による特別控除が適用されるが、収用地分については、前同様、最初に買取り申出があった日である昭和四五年一月二〇日から六か月以内に収用地の譲渡がなされなかったから、同条第三項第一号の規定により同条第一項の規定の適用が排除され、右特別控除の適用はなされないことになるので、右収用地分二一九万二七六〇円(譲渡価額二四五万七一三四円から取得費一二万二八五六円、譲渡費用一四万一五一八円を控除したもの。)が譲渡所得の金額となる。

(2) 原告は、昭和四八年分所得税について、右譲渡所得のほか、給与所得三五三万〇九八六円を得ており、別表3申告額欄記載のとおりの確定申告をしていたが、配偶者である原告豊子には右(一)記載のとおりの譲渡所得があるから配偶者控除を否認し、また(1)記載のとおり二一九万二七六〇円の譲渡所得を得ているから、国税通則法第一一八条第一項の規定を適用して一〇〇〇円未満の金額を切り捨てた二一九万二〇〇〇円が課税所得金額となり、右は分離長期譲渡所得であるから、別に税額を算出したうえ、これを加算すると、納付すべき所得税額は三七万八四〇〇円となる。

(3) また、原告は、これを過少に申告したから、国税通則法第六五条第二項の規定により過少申告加算税一万八九〇〇円を納付すべき義務がある。

そこで、被告は原告に対し、別表3更正欄記載のとおりの更正処分並びに過少申告加算税賦課決定処分をしたものである。

2  本件処分の適法性

本件収用による譲渡所得中、収用地分については法第三三条の四第一項の規定による特別控除は適用されない。すなわち、

(一) 法第三三条の四の規定は、収用交換等の場合の譲渡所得の特別控除を定めたものであるが、この規定は、公共事業の工事促進のためには、その用地等の買収が短期間に、かつ円滑になされることが必要であるから、早期にその資産を譲渡する等公共事業の施行に協力した者に対して税制面で優遇する措置を講じ、もって社会公共のために行われる土地等の取得の円滑化を図ったものである。従って法第三三条の四第三項第一号に収用等により資産を譲渡する場合においても、公共事業施行者から、当該資産について、最初に買取り申出があった日から六か月を経過した日までに当該譲渡がなされなかった場合には、当該資産については、法第三三条の四第一項の特別控除の規定は適用しないと定められているのである。

(二) 本件土地の収用は、建設省が建設大臣を起業者として一般国道一六号改築工事(保土ケ谷バイパス、横浜市旭区本村町・同区上川井町間)及びこれにともなう市道付替工事のためになされたものであるが、これに先立って建設省は原告らに対し昭和四五年一月二〇日本件土地のうち収用地につき、その所在買取物件を特定し、かつ買取価格については建設省関東地方建設局の土地評価事務要領に基づき定められた価格である横浜市旭区今宿町字金ケ谷二一七八番八の土地については八三〇〇円(一平方メートル当り、以下同じ)、同市同区同町字神成谷二五二五番四及び五の各土地については山林部分が八三〇〇円、私道部分(幅員約六メートル、延長約一二メートル、面積約七九平方メートル)が四二〇〇円、平均単価約七〇〇〇円という具体的金額を明示して買取り申出(以下「本件買取り申出」という。)をした。

(三)(1) 本件土地が、収用委員会の裁決によって譲渡された日は、昭和四八年一二月八日であるから本件買取り申出があった日から六か月を経過している。

(2) 法第三三条の四第三項第一号は右期間徒過の理由如何を問わない趣旨の規定であるから、被告が、原告らの収用地分の譲渡所得について同条第一項の規定による特別控除をなさず本件処分をしたことは適法である。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1(一)(1)ないし(3)、(二)(1)ないし(3)の各事実及び主張は、原告らの収用地分の譲渡所得につき法第三三条の四第一項の規定の適用がないとの主張部分は争うが、その計算関係は認める。

2(一)  同2冒頭の主張は争う。

(二)  同2(一)の主張は認める。

(三)  同2(二)の事実は認める。

(四)(1)  同2(三)(1)の事実は認める。

(2) 同2(三)(2)の主張は争う。

五  原告らの主張

1  本件買取り申出は、買取り申出価格が極めて低額であり、かつ買取り物件は保土ケ谷バイパスの敷地部分のみというものであった。そのため、原告らにおいて右土地の買収に応ずれば、本件土地のうち四割三分に近い残地部分、すなわち本件の残地収用地分は全くの袋地となって無価値となり、収用委員会の裁決による価格によっても原告豊子分五五四万六四七八円、原告分一八四万八八二七円という甚大な財産上の損害を蒙ることとなるので、原告らは、相当な価格による買取りと残地収用地を含む一括買取りを申出たのであるが、建設省にこれを拒否されたため、収用地の買取りの申出に応じなかったのであって、以下の理由により買取り申出はなかったことに帰する。すなわち

(一) (買取り申出価格について)

(1) 本件土地から五〇メートルないし一〇〇メートル離れた東急ニュータウン二俣川第二団地の分譲価格は五万円ないし七万円であるといわれ、また本件土地隣接地の所有者は東急側の買収に対し二万円平均で売却交渉中とのことであって、本件買取り申出価格は極めて低廉であった。

(2) また横浜市旭区今宿町神成谷二五二五番四及び五の土地のうち私道敷地と評価された部分は、現況は宅地化された山林で、右私道なるものは廃止されて存在しなかった。従って建設省が私道敷地として極めて低く評価したのは不当であった。

(二) (収用地のみの買収の不当性について)

(1)(イ) 横浜市旭区今宿町字金ケ谷二一七二番四及び八の土地(以下「金ケ谷の土地」という。)は、もと同所二一七二番四の一筆の土地で、収用手続中に同所二一七二番四及び八に分筆されたものであって、ほぼ別紙図面1記載のとおりの位置形状である。

(ロ) そして、金ケ谷の土地は、その東側にある同所二一七二番七の土地が金ケ谷の土地ともと一筆の土地であって、その東側に隣接する同所二一八一番八の土地とともに、もと原告豊子の祖父新川丈太郎が所有していたことから、原告らは、保土ケ谷バイパスができるまでは、同図面表示の青線のとおり同所二一七二番七、同所二一八一番八を通って公道にでていた。しかしながら、同図面赤斜線表示のとおり保土ケ谷バイパスが建設されると、右バイパスが自動車専用道路で歩道がないため、通行ができなくなり外部と完全に遮断されて全くの袋地となってしまい、同土地への出入りができなくなり利用価値が全くなくなってしまう。

(ハ) なお、被告は、右土地の南側にある私道を通行していたかの如く主張するが、原告らは右私道を通行していたものではないし、右私道は他人の栗林であるから権原もなく、他人所有地内の該私道を通るのは違法である。

(2)(イ) 横浜市旭区今宿町神成谷二五二五番一、四及び五の土地(以下「神成谷の土地」という。)は、もと同所二五二五番一の一筆の土地で、収用手続中に同所二五二五番一、四及び五に分筆されたもので、ほぼ別紙図面記載のとおりの位置形状である。

(ロ) 神成谷の土地は、もと同所二五二五番一、二及び三とともに同所二五二五番の一筆の山林であった。そして右土地は原告豊子の祖父新川丈太郎が所有し、その南側の公道に接していたのであるが、新川丈太郎所有当時、一、二及び三に分筆されて袋地となったため同図面表示の青線のとおり、同所二五二五番二、三を通って南側の公道にでていた。しかしながら、同図面赤斜線表示のとおり保土ケ谷バイパスが建設されると、右バイパスは通行できなくなるから外部と完全に遮断されて全くの袋地となってしまい、同土地への出入りができなくなり利用価値が全くなくなってしまう。

2  建設省の収用地買取り申出は公共事業施行の一段階であり、一つの行政行為である。さればこそ申出に応じない場合には土地収用法が適用されるのであり、租税特別措置法による特別規定の適用を受けるのである。

3  法第三三条の四第三項第一号に定める「買取り申出」は合法かつ相当なものでなければならない。右行政行為が無効ないし取消されるべき行為にあたるときは、当該行政行為すなわち買取り申出行為は瑕疵ある行為として正当な買取り申出に該当しない。換言すれば「買取り申出」はなかったことに帰する。

4  道路その他公共の用に供するための土地の買取り申出であっても恣意ないし権利乱用にわたることは許されない。建設省としては、道路敷地のみを買取れば事は足りるであろうが、そのため、本件のように残地が袋地となり原告らに不測の損害を生ぜしめるときには残地を含めて買取るべきであり、これを拒否した建設省の収用地買取り申出は瑕疵ある行政行為である。このことは、収用委員会が残地収用地をも含めて収用するのを相当と認め、裁決によって残地をも含めて補償額を定めたことからも明らかである。

5  法第三三条の四第三項第一号の規定も瑕疵ある行政庁の行政行為に従うことを強いる規定ではない。もしこれを強いるとすれば、法が納税者のため特別措置を設けた法意に反し、不当な損害の忍受を強要することになり、そのようなことになれば憲法第二九条の財産権の補償にも違反することとなる。

6  以上のとおり、建設省の本件買取り申出は、法第三三条の四第三項第一号の規定する「買取り申出」に該当しないから、同規定を適用して同条第一項の特別控除の規定の適用を排除して、本件処分をなしたのは違法である。

7  また、かかる不当な申出をなし、原告らが右損害を避けるため増額並びに残地の一括買取の申出をしたにもかかわらず、建設省は右要求に応じないばかりか収用権を笠に一方的にその要求を押しつけたため、買収交渉がまとまらなかったのであるから買収交渉が妥結するに至らなかった責任はすべて建設省にある。

六  原告らの主張に対する認否

1(一)  原告らの主張1冒頭の事実中、本件買取り申出が保土ケ谷バイパスの敷地部分のみであったこと、右土地の残地部分が本件残地収用地であり、右残地部分が本件土地のうち四割三分に近いこと、残地収用地に対する損失の補償がその主張のとおりであること及び原告らが本件買取り申出を拒否したことは認めるが、その余の事実は否認する。

(二)(1)  同1(一)(1)の事実は不知。

(2) 同1(一)(2)の事実は否認する。

(三)(1)(イ) 同1(二)(1)(イ)の事実は認める。

(ロ) 同1(二)(1)(ロ)の事実中、保土ケ谷バイパスが別紙図面1赤斜線表示のとおり予定され建設されたこと及び同バイパスは自動車専用道路で歩道がなく人が通行できなくなることは認めるが、原告らが建設省の本件買取り申出に応じることにより、その結果として残地が袋地となり通行できなくなり利用価値がなくなるとの事実は否認する。

(ハ) 同1(二)(1)(ハ)の主張は争う。

(2)(イ) 同1(二)(2)(イ)の事実は認める。

(ロ) 同1(二)(2)(ロ)の事実中、保土ケ谷バイパスが別紙図面2赤斜線表示のとおり予定され、建設されたこと及び同バイパスは自動車専用道路で歩道がないから人が通行できなくなることは認めるが、原告らが建設省の本件買取り申出に応じることにより、その結果として残地が袋地となり、通行できなくなり、利用価値がなくなるとの事実は否認する。

2  同2及び3の主張は争う。

3  同4の事実中、収用委員会が本件残地をも含めて収用裁決をし、補償額を定めたことは認めるが、その余は不知。

4  同5ないし7の主張は争う。

七  原告らの主張に対する被告の反論

1  本件買取り申出の価格は相当であり、かつ保土ケ谷バイパスの敷地部分のみの買取り申出ではあったが、右買取り申出当時、本件土地の状況及び工事計画からみて収用地の買取りによって残地を袋地にしたり、その価値を減ずるようなことはなく、原告らと建設省との買収交渉が紛糾、長期化し、買取り申出の日から六か月以内に本件土地の譲渡がなされなかったのは次のとおり建設省の責に帰せられるものではない。

(一) 本件買収交渉の経緯

(1) 建設省は、保土ケ谷バイパス建設事業について昭和四五年一月二〇日原告らを含む横浜市旭区今宿町地区の関係地主らに対し買収土地を特定し買収価格を呈示してその算出基準等の説明を行い実質的な買収交渉に入った。

(イ) 本件買取り申出価格は、前述のとおり、金ケ谷の土地については八三〇〇円、神成谷の土地については山林部分が八三〇〇円、私道部分が四二〇〇円であったが、右の価格は、建設省関東地方建設局の土地評価事務要領に基づき、地域の特殊性、住宅等の建設の動向、宅地としての利用状況、用途規制等が類似する地区ごとに区分した標準地を定め、その鑑定評価額、近傍類似地の取引事例等を勘案して標準地価格を定め、これを基礎として各土地の個別要因等を比較する比準方式により算出したものであった。そして、保土ケ谷バイパス建設事業の第八工区(旭区本村町、同区川井町間)においては、関係地主二〇四人のうち、原告らと外一件を除き、他の関係地主全員が、建設省が呈示した価格により任意買収に応じており、また、本件収用裁決申請において起業者(建設省)が原告らに呈示した価格は、右の価格に協議開始時(昭和四五年一月二〇日)から事業認定告示の時(昭和四七年五月一九日)までの時点修正及び市街化調整区域に指定されたことによる補正を行なった価格である金ケ谷一万〇四〇〇円、神成谷八八〇〇円を重要な資料として算定し、収用しようとする土地の価格を金ケ谷の土地一万〇五〇〇円、神成谷の土地九〇〇〇円としたところ、右価格につき収用委員会が、その裁決理由中において、その価格決定の手法において格段の不合理は認められないと認定していることに照せば、本件買取りの申出価格が妥当であったことが認められる。

(ロ) また、本件土地の状況及び工事の計画は次のとおりであって、収用地のみの買取りによって、残地が袋地となることはない。

(a) 金ケ谷の土地

金ケ谷の土地は北西に緩く傾斜した山林であり、別紙図面1記載のとおり、もともと他人の所有する土地に囲繞され、直接公道から出入りのできない土地である。そして原告らは右土地の南側に存在する幅員約二メートル弱の私道によって通行していたものである。したがって、原告らが建設省の本件買取り申出に応じ、保土ケ谷バイパスが予定どおり同図面赤斜線部分に建設されたとしても、その結果として、残地が袋地となったり、また残地の通行手段に特に困難を生じ、その価値が低下するものではなかった。

(b) 神成谷の土地

神成谷の土地は、その西側部分が東に三〇度ないし四〇度傾斜し、その東側部分に幅員約六メートルの南北に通ずる開放私道が存在する山林であって、別紙図面2記載のとおり、もともと他人の所有する土地に囲繞され、直接公道から出入りできないL字型狭長の不整形の土地である。そして原告らは右私道を通行していたものである。ところで、右私道は、保土ケ谷バイパスが予定どおり同図面赤斜線部分に建設されると、南北に分断されることになるが、残地となる部分の北東側に保土ケ谷バイパス道路工事とともに計画された市道付替工事により新設される幅員三メートルの公道が接する予定であったから、原告らが建設省の本件買取り申出に応じたとしても、その結果として残地が袋地となったり、また残地の通行手段に特に困難を生じ、その価値が低下するものではなかった。

(2) 原告らは、もともと保土ケ谷バイパス建設工事には反対であり、建設省において調査中であった昭和四二年四月、建設省に対し内容証明郵便をもって、保土ケ谷バイパス建設のため買収予定の原告ら所有地は国鉄鶴見事故で死亡した原告らの長男一に所縁の土地であること等を理由に、路線計画の変更を求め、買収交渉には一切応じられない旨通知していたし、また建設省は、保土ケ谷バイパス建設事業について、原告らを含む今宿町地区関係地主等を対象に昭和四四年一〇月二〇日第一回の工事説明会を開催して以来、四回にわたり工事、用果買収についての説明会を開催して、原告らに事業への協力を依頼してきたが、原告らは、右第一回の説明会においても、長男一名義の土地であるから買収に応じられないとの意向を表明し、さらに同年一一月四日及び五日なされた現地測量の立会の際にも買収には応じられないとの意向を示した。そして、原告らは、本件買取り申出に対しても、長男一名義の土地であるから買収には応じられないとの意向を述べた。

(3) しかし、原告らは個別交渉には応ずるとのことであったので、建設省の係官は、昭和四五年五月二六日原告の勤務先に赴き交渉したところ、原告は、長男一名義の土地を残したいとして路線の変更を求め、買収には応じられない旨述べるとともに、買収するとすれば、(a)買収価格が低廉である。特に神成谷の土地については、同土地の東側に存する現況私道部分について減価することは不当である。(b)代替地を提供して欲しい。(c)神成谷の土地については残地が不整形となって利用価値に乏しいから一括買収すべきである等の意見を述べ、収用されるも止むを得ないとの意向を示した。

(4) これに対し建設省は(a)買収価格についてはすでに第八工区の関係地主らの七〇パーセントが合意している。起業者が買収価格を算出するにあたっては、現況によるのが相当であって、現況私道部分を減価するのは当然である。(b)代替地については、提供できる土地がないから不可能である。(c)神成谷の土地は、もともと不整形である。買収面積は五六二平方メートル(実測面積、以下同じ。)のうちの約二六一平方メートルで、残地が三〇一平方メートルもあり面積的にも大きすぎる。原告が亡長男の思い出の土地を残したいとの希望であれば残地として残してはどうか等と説明し買収に応ずるよう求めたが原告はこれに応ぜず、事実認定申請の時点で再度交渉を行うことを約したのみで、交渉は物別れとなった。

(5) その後、昭和四六年一一月二九日事業認定の申請がなされ、同年一二月二九日再度交渉を行なったが、原告らは替地補償、価格の修正等を固執して譲らず、収用されるも止むを得ないとの発言もあったので、建設省は、昭和四七年五月一九日事業認定の告示がなされ工事の進捗状況も考慮しなければならないので、同年一〇月四日をもって交渉を打切り、同年一一月一六日収用委員会に対して収用裁決等の申請をするに至ったものである。

(6) 右のとおり、原告らは、本件土地が袋地となり価値がなくなるため、残地買取りを請求した等と主張するが、右のような請求は、前述の交渉には全く出なかったものであり、特に金ケ谷の土地については、原告らが収用委員会に提出した昭和四七年一二月二五日付の意見書においても替地補償が得られないときは残地として残す旨述べているのであって、後に収用委員会が、原告らの残地収用請求により本件残地の収用裁決をしたが、右のようなことは、本件買取り申出当時の本件土地の状況からすれば、全く予想し得なかったところである。

2  公共事業施行者の買取り申出は、私法上の売買契約の申込であるから公共事業施行者が買取り申出に当って売主特有の事情を考慮しなかったとしても、何ら違法、不当の問題を生ずる余地はなく、また当該公共事業が国民の負担をもってまかなわれるものであることに鑑みれば、公共事業施行者が買収しようとする土地の範囲は現実に当該公共事業の用に供するために必要な範囲に限られるのは当然である。

八  被告の反論に対する認否

1(一)  被告の反論1冒頭の主張は争う。

(二)(1)  同1(一)(1)冒頭の事実は認める。

(2)(イ) 同1(一)(1)(イ)の事実中、本件買取り申出価格が被告主張のとおりであることは認めるが、右価格が妥当なものであったことは否認する。

(ロ)(a) 同1(一)(1)(ロ)(a)の事実中、金ケ谷の土地が別紙図面1記載のとおりで、もともと他人の所有する土地に囲繞され、直接公道から出入りのできない土地であったことは認める。原告らが右土地の南側に存在する幅員約二メートル弱の私道によって通行していたことは否認する。その余の事実は争う。

(b) 同1(一)(1)(ロ)(b)の事実中、神成谷の土地が、別紙図面2記載のとおりで、もともと他人の所有する土地に囲繞され直接公道から出入りできない土地であったことは認める。その東側部分に幅員約六メートルの南北に通ずる開放私道が存在し原告らがこれを通行していたことは否認する。その余の事実は争う。

(3) 同1(一)(2)の事実中、原告がその主張のような内容の内容証明郵便を出したことは認めるが、右は本件買取り申出以前の買収交渉に入っていない時のことである。これは建設省が原告らに無断で本件土地に侵入し測量し現地を荒したことに対する抗議のためのものであって買収交渉とは関係ない。また原告らが昭和四四年一〇月二〇日第一回の工事説明会に出席し買収に応じられない旨の意向を示したことは否認する。原告らは右説明会に出席していない。

(4) 同1(一)(3)ないし(6)の事実中、原告らが買収交渉中に、買収価格が低廉であること、代替地の要求等をしたことは認めるが、これは土地収用法に認められている権利であって少しも不当なことではない。

2  同2の主張は争う。

第三証拠

一  原告ら

1  甲第一号証、第二号証の一、二、第三及び第四号証、第五号証の一ないし四(金ケ谷の土地付近の写真)、第六号証の一、二(神成谷の土地付近の写真)、第七号証(本件土地付近の写真)、第八ないし第一二号証、第一三号証の一ないし一四(本件土地の写真)、第一四及び第一五号証の各一、二、第一六号証。

2  原告、同豊子。

3(一)  乙第一号証、第一二号証の四、第一四ないし第二二号証の各成立を認める。

(二)  乙第二ないし第四号証、第六号証、第七号証の一ないし四、第八号証、第一三号証の各原本の存在及び成立を認める。

(三)  乙第一二号証の一ないし三が神成谷の土地付近の写真であることは認める。

(四)  乙第五号証の原本の存在及び成立は不知。

(五)  乙第九及び第一〇号証、第一一号証の一、二の各成立は不知。

二  被告

1  乙第一ないし第六号証、第七号証の一ないし四、第八ないし第一〇号証、第一一号証の一、二、第一二号証の一ないし四(第一二号証の一ないし三は神成谷の土地付近の写真)、第一三ないし第二二号証。

2  証人多田孝男、同竹井雅彦。

3(一)  甲第八及び第一四号証の一、二の各原本の存在及び成立を認める。

(二)  甲第三及び第一六号証の各成立は不知。

(三)  甲第二号証の一、二の原本の存在及び成立は不知。

(四)  甲第五号証の一ないし四が金ケ谷の土地付近の写真であること、第六号証の一、二が神成谷の土地付近の写真であること、第七号証が本件土地付近の写真であること、第一三号証ないし一四が本件土地の写真であることは認める。

(五)  その余の甲号各証の成立は認める。

理由

一  請求原因1、2(一)(二)、3(一)(二)、4の各事実、及び被告の主張1本件課税処分の経緯中の計算関係(ただし収用地分の譲渡所得につき法第三三条の四第一項の規定の適用がないとの点を除く)、2本件課税処分の適法性のうち(二)(三)(1)の事実については当事者間に争いがない。

二  被告は法第三三条の四第三項第一号は期間徒過の理由如何を問わない規定であると主張し、原告らは本件買取り申出は、買取り申出価格が極めて低廉であり、かつ買取り物件は保土ケ谷バイパスの敷地部分のみという買取り申出であったが、右土地の買収に応ずれば、残地部分は全くの袋地となり無価値となって原告らは甚大な損害を蒙ることとなるので、相当な価格による買取りと残地を含む一括買取りを申出たのに、建設省においてこれを拒否したため、買取り申出に応じなかったのであって、右のような著しく不当な申出は買取り申出がなかったことに帰すると主張する。

法第三三条の四の収用交換等の場合の譲渡所得の特別控除の規定の立法趣旨は、公共事業施行者の事業遂行を容易にするため、その用地等の買収が短期間に、かつ円滑になされることが必要であるから、早期にその資産を譲渡する等公共事業の施行に協力した者についてのみ税制面で優遇する措置を講じ、もって社会公共のために行われる土地等の取得の円滑化を図った極めて政策的な規定であって、同条第三項第一号は特に収用等により資産を譲渡する場合であっても、公共事業施行者から当該資産について最初に買取り申出があった日から六か月を経過した日までに当該譲渡がなされなかった場合には、当該資産については右特別控除の規定は適用しないと定めているのであるから、同号の規定する六か月の期間の定めは画一的であって右期間徒過の理由如何を問わない趣旨であると解すべきことは被告所論のとおりである。

しかしながら、国民に権利利益を賦与する規定であっても、他の法律の規定に違反することは許容されないし、また法規は信義誠実の原則に従って適用されなければならないこというまでもないから、右買取り申出が土地収用法その他の法律に違反し、または著しく不当であるときは、公共事業施行者からの買取り申出も法第三三条の四第三項第一号の規定する買取り申出に該らない場合が例外的にあり得ないわけではないと解するのが相当である。従って以上の観点から原告らの主張について検討することとする。

三  原告らの主張に対する判断

1  原告らは本件買取り申出は、申出価格が極めて低額であったと主張する。

建設省が原告らに対し昭和四五年一月二〇日本件土地のうち収用地につき建設省関東地方建設局の土地評価事務要領に基づき定められた価格、金ケ谷の土地については八三〇〇円、神成谷の土地については山林部分が八三〇〇円、私道部分が四二〇〇円で買取り申出をしたことは当事者間に争いがない。

ところで後記本件収用に至る経緯において説示するとおり建設省の買取り申出の価格は決して不当なものではなかったから原告らのこの点に関する主張は理由がないが、公共事業施行者の買取り申出は後記説示のとおり私法上の売買契約の申込みに過ぎず、土地所有者等の売主をなんら拘束するものではないから、たとえ買取り申出の価格が客観的な価格に比して低額であっても爾後六か月にわたり公共事業施行者と価格につき交渉の余地が残されておるのであって、申出価格が極めて低額であったことは特段の事情のないかぎり買取り申出の該当性を失わせるものではない。

2  原告らは建設省の買取り物件は保土ケ谷バイパスの敷地部分のみという買取り申出であったところ、右土地の買収に応ずれば残地部分は全くの袋地となって無価値となるので残地を含む一括買取りを申出たのに建設省はこれを拒否したと主張する。

成立に争いのない甲第一号証、原本の存在及び成立に争いのない乙第七号証の一ないし四、証人竹井雅彦の証言により真正に成立したと認める乙第五号証と同証言、証人多田孝男の証言によれば、昭和四五年一月二〇日建設省が最初に本件収用地の買取り申出(証人竹井雅彦の証言によれば一月二一日であることが認められる。以下同じ)をして以来、原告らは終始本件土地は国鉄鶴見事故で不慮の死を遂げた長男の所縁の土地であるから買収には応じられないとの態度を堅持していたものの、建設省関東地方建設局横浜国道工事事務所の係官竹井雅彦が昭和四五年五月二六日原告の勤務先である横浜ゴム平塚研究所に赴いて同原告に対し本件収用地の売渡方を説得した際、同原告において右竹井に対し、収用地のほか、残地を含めて一筆全部一括して買収すべきである旨申向けたこと、これに対し右竹井は残地が面積的に大き過ぎるから買収に応じられない旨答えたこと、建設大臣から昭和四七年一一月一六日申請された神奈川県収用委員会の本件収用裁決手続において、原告らの「金ケ谷の土地については袋地となり、神成谷の土地については細長い長靴型の土地となり、ともに従来利用していた目的に供することが著しく困難になるので収用を請求する。」旨の残地収用請求に基づき、神成谷の土地については建設省の道路計画の一部変更により起業者(建設省)において、その残地部分を買収してもよい旨の意見表明により、金ケ谷の土地については、右委員会の「審理並びに現地調査の結果に徴し残地収用することを相当と認める。」との理由により、いずれも残地収用の裁決がなされ、各土地につき補償額が定められたこと(収用委員会が本件残地収用の裁決をなし補償額を定めたことは当事者間に争いがない。)が各認められ、右認定に反する原告、原告豊子の各供述部分は信用できない。

右認定の事実によれば、客観的に残地収用の要件があり、本来残地をも含めて買取りの申出をなすべき場合であったのに、建設省において全く恣意的に不当に収用地のみの買取り申出をなしたのではないかとの疑を払拭しきれない。

そこで、以下本件収用に至る経緯を細かく検討してみることとする。

3  本件収用に至る経緯

前掲甲第一号証、乙第五号証、第七号証の一ないし四、成立に争いのない甲第八号証、原本の存在及び成立に争いのない乙第二号証、第三号証、第六号証、第八号証、金ケ谷の土地付近の写真であることに争いのない甲第五号証の一ないし四、神成谷の土地付近の写真であることに争いのない甲第六号証の一、二、乙第一二号証の一ないし三、本件土地の写真であることに争いのない甲第一三号証の一ないし一四、前掲証人多田孝男、同竹井雅彦の各証言及び原告らの各本人尋問の結果(ただし後記認定に反する部分を除く。)並びに弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実を認めることができる。

(一)  本件土地の買取り申出は、横浜市を起点とし、首都圏の各衛星都市を結び再び横浜市に至る環状重要幹線道路である一般国道一六号が近年の車両大型化と数量的増大に伴い各所で交通渋滞をきたしていることから、第六次道路整備五か年計画に基づき重要路線を改築する一環として横浜市保土ケ谷区及び旭区を通過する区間延長約九・三キロメートルのバイパス(保土ケ谷バイパス)を新設するに際し、その用地の買収のためになされたものである。

(二)  右事業は、建設省関東地方建設局により昭和四二年四月から事実上開始され、同年中にまず横浜市保土ケ谷区藤塚町・同市旭区本村間の用地測量及び物件調査がなされ、昭和四三年中にこれを完了し、建設省は本村町・南本宿町間の一部用地取得に着手した。そして右建設局係官は原告らを含む今宿町地区関係地主に対しては、昭和四四年一〇月二〇日第一回の工事説明会を開催したのを初めとして三回にわたり用地買収の説明をなし、境界の立会を求め、右事業への協力を依頼してきた。

(三)  ところで、本件土地は、原告豊子が、昭和一八年ころ新川家から瀬沼家に嫁した際、持参金代りに新川家から分与されることになっていた山林の一部であるところ、原告豊子の父親が死亡後、兄が相続したことにより、右兄において容易に譲渡に応じないため、兄を相手に調停申立までして、ようやく昭和三六年八月二一日兄から譲渡を受け、原告豊子が自己と長男一の名義で取得登記を経たうえ、母子の共有としてきたものであるが、長男一は昭和三八年一一月八日国鉄鶴見事故で不慮の死を遂げ、以後は長男一の思い出の土地として大切に管理してきたものであった。

(四)  ところが、思い掛けなく、前記のように保土ケ谷バイパス建設工事が現実化し、本件土地がその道路敷に組入れられ、昭和四二年四月ころ建設省関東地方建設局の係官またはその下請人らが原告らの承諾を得ることなく本件土地に立入って調査したことから、かねて長男一の事故死の際の国鉄当局の非情な処遇に不満を懐いていた原告らは、またも一所縁の土地が国の機関によって踏みにじられたといたく立腹し、原告は、同年四月一一日付内容証明郵便で横浜国道工事事務所長宛に無断立入りを抗議するとともに路線の変更を求め、買収交渉には一切応じられない旨通知していた。原告らは前記工事説明会に出席したり、測量のための境界立会をするなど土地の買収には関心を示しながらも、その都度本件土地の買取りには応じられないことを表明し、爾後その態度を変えなかったものである。

(五)  関東地方建設局は、昭和四五年一月二一日都岡農業協同組合に原告らを含む今宿地区関係地主を集め、それぞれ、その所有土地について買取りの申出をなした。(建設省が原告らに対し昭和四五年一月二〇日収用地について買取りの申出をなしたことは当事者間に争いがない。)

(六)  関東地方建設局係官が原告らに呈示した買取り申出価格は金ケ谷の土地については八三〇〇円、神成谷の土地については山林部分が八三〇〇円、私道部分が四二〇〇円であった(この点当事者間に争いがない。)。

(七)  右買取り価格は関東地方建設局の土地評価事務要領に基づいて地域の特殊性、住宅等の建設の動向、宅地としての利用状況、用途規制等が類似する地主ごとに区分し標準地を定め、これを基礎として各土地の個別要因等を比較する比準方式により算出したものであった。そうして神成谷の土地については、それがたまたま右の標準地になったこともあって、東京不動産株式会社及び東京建物株式会社の鑑定評価額及び近傍類似地の取引事例等を勘案して標準地価額八三〇〇円と定めたものであった。

(八)  原告らの本件土地を含む保土ケ谷バイパス建設事業の第八工区(旭区本村町同区川井町間)においては関係地主二〇四人のうち、原告らと鈴木フミを除き、他の関係地主は全員右建設局が呈示した価格により任意買収に応じた。

(九)  本件土地の収用裁決においては、補償額として金ケ谷の土地については一万一八〇〇円、神成谷の土地については一万〇七〇〇円と定められたものの、本件収用裁決申請において起業者(建設省)が原告らに呈示した価格金ケ谷の土地につき一万〇五〇〇円、神成谷の土地につき九〇〇〇円は、前記建設局係官が収用地の買取り申出に当って呈示した価格に右申出時から事業認定告示の時(昭和四七年五月一九日)までの時点修正及び市街化調整区域に指定されたことによる補正を行った価格である金ケ谷の土地一万〇四〇〇円、神成谷の土地八八〇〇円を重要な根拠として算定したものであるところ、収用委員会も、その裁決の理由において、その価格決定の手法において格段の不合理は認められないと認定しているところであって、右建設局の呈示した買取り申出の価格は不当に低廉なものではなかった。

(一〇)  しかるに、原告らにとっては、本件土地が前記のような因縁のある土地であるところから、買取り申出価格が近隣の団地買収の際の価格にくらべて不当に安いものと感ぜられ、その上、不慮の死を遂げた長男一の思い出の土地が道路敷として買収され、その上を車が走ることは二重の事故に逢うようなものと想い込み、国による土地買収について堪え難い被害感情にかられ、ますます態度を硬化していったものである。

(一一)  原告らは、昭和四五年一月二一日、右建設局が最初になした本件買取り申出に対し、長男一名義の土地であるから買収に応じられない旨述べたが、更に本件土地の売渡し方説得のため、前述のとおり、同年五月二六日原告の勤務先横浜ゴム平塚研究所に来訪した建設省の係官に対しても、原告は長男一名義の土地を残したいから路線を変更されたいと求め、土地の買収には応じられない旨述べるとともに、もし買収するのであれば、(イ)買取価格が低廉であること。特に神成谷の土地については、同土地の東側に存する現況私道部分は正式な道路でないから減価することは不当であること。(ロ)代替地を提供して欲しいこと。(ハ)残地を含めて一括して買収すべきであること等の意見を述べ、任意買収には応じないが、建設省において法的手続によっても収用するというのであるなら収用されても止むを得ないとの意向を示した。そして、右建設省の係官の種々の説得にもかかわらず、この態度を変えなかったので、事業認定申請の時点で再度交渉を行うことを約して物別れとなり、昭和四六年一一月二九日事業認定の申請がなされた際、再度の買取の交渉が行われたが、原告らは、替地補償、価格の修正等を固執して譲らず、法的手段によって収用されるも止むを得ないということであった。しかし、右の数度にわたる買収交渉を通じ、原告らから収用地のみが買収されると残地が袋地になるから残地を含めての買収でなければ買取り申出に応じられないとの発言がなされたことは一度もなかった。

(一二)  本件土地は、別紙図面1及び2の位置にあり、それぞれ赤斜線部分に保土ケ谷バイパスができることになっていた。そして保土ケ谷バイパスは、自動車専用道路で歩道がなく、徒歩でここを通行し、またはこれを横断することはできなくなることになっていた。しかし、金ケ谷の土地(当時は同所二一七四番四の一筆の土地で収用手続中に、現在のように分筆された。)は、北西に緩く傾斜した高台の山林の一角であって、もともと他人の土地に囲繞され、直接公道に接しない土地であったが、右土地の南側には幅員一メートルないし二メートル程の私道が通じこれを通行できる状態であったし、収用地の買収による残地部分の面積もかなりあって、残地部分を買収しないことが特に原告らに損害を与えるとも考えられない状況であった。また神成谷の土地(当時は同所二五二五番一の一筆の土地であり、収用手続中に現在のように分筆された。)は、その西側部分が東に三〇度ないし四〇度傾斜し、その東側部分に幅員約四メートルないし六メートルの南北に通ずる私道が存在する山林で、もともとL字形の幅の狭い細長い不整形の土地であった。ところで、右私道は、保土ケ谷バイパスの建設により南と北に分断され使用できなくなるが、残地となる部分の北東側に保土ケ谷バイパスとともに計画された市道付替工事により新設される幅員三メートルの公道が設置される予定になっていたのであるから、原告らが収用地の買取りに応じたとしても、残地の通行には何ら支障を生せず、また残地は収用地の買収により、不整形にはなるが、かなりの面積があり、前示のように右土地はもともと山林の狭い崖地で利用価値の低い土地であったのであるから特に価格が著しく低下するとも考えられない状況であった。

(一三)  なるほど、前記のように原告は昭和四五年五月二六日、その勤先である横浜ゴム平塚研究所において右建設局の係官に対し残地をも含めて一筆全部一括して買収すべきである旨申向けたが、右は「建設省は一筆の土地を二つに分けたり、三つに分けたりして好き勝手な買い方をする。民間の売買では土地を買う場合は一筆全部をまとめて買うのが常識ではないか。」という趣旨で建設省の用地買収のあり方をなじり、権力をかさにきた国の買収には応じられない旨を表明する際の言葉の文であって、残地が袋地となるから収用地とともに残地をも一括して買収してくれるなら収用地を売渡してもよい旨の意思を表明したものではなかった。

(一四)  建設省は昭和四七年一一月一六日収用委員会に対し本件収用裁決の申請をなしたが、右収用手続における審理の際、原告らは、(イ)残地については使用が困難となるから残地収用を請求する。(ロ)本件土地は長男一所縁の土地であるから思い出に残すため替地補償を請求する。(ハ)金銭補償の場合は二万円ないし二万五〇〇〇円以上の補償をすべきである。(ニ)しかし金銭補償の場合は金ケ谷の土地については残地収用の請求はしないとの意見を述べている。その後昭和四八年四月二日になって初めて金ケ谷の土地についても袋地となるから残地を収用されたい旨請求するに至った。これに対し、起業者(建設省)も、神成谷の土地については道路工事の計画を変更することにより残地を利用することができ買収可能となるから、残地収用に応じてもよい旨の意向を示すに至った。収用委員会は、神成谷の土地については右起業者の意向をふまえ、また金ケ谷の土地については独自の審理並びに現地調査の結果に徴してその裁量により残地収用する旨の裁決をなした。

以上の事実が認められ、右認定に反する原告、同豊子の各供述は信用し難い。

右認定の諸事実によれば、建設省が最初に収用地のみの買取り申出をなしたことも、決して恣意的な著しく不当なものであったとは認め得ないから、原告らの主張は理由がないといわねばならない。もっとも、収用委員会は金ケ谷の土地についても残地収用の裁決をなしたが、このことから直ちに建設省の最初になした収用地のみの買取り申出が著しく不当であったと推認すべきものではない。何故なら前記認定のように原告らは収用裁決手続の審理の際において金ケ谷の土地については残地収用の請求はせず、これを保有したいとの意見を述べているのであるから、建設省の最初の買取り申出当時、金ケ谷の土地につきその残地買収を求めたとは到底推測し難いし、また収用委員会の残地収用を相当とする旨の判断が即金ケ谷の土地についての客観的な買取りの要件についての公権的判断となるものでもないこというまでもない。蓋し起業者は右裁決を争って出訴ができないわけではなかったのであり、当裁判所は金ケ谷の土地の残地が通行権なき袋地になるとは解さないからである。

4  なお、原告らは、公共事業施行者の買取り申出を行政行為であると主張するが、右申出は前示のとおり公共事業の早期実現のためにする事業用地の任意買収の申出行為であるから、私法上の売買の申込であると解するを相当とし、その性質上一般に行政行為の要件と考えられる「行政庁が、法に基づき、公権力の行使として、国民に対し、具体的事実に関し法律的規制をなす行為」に該当するものとはいえない。従ってこれを前提とする主張は、その余の判断をするまでもなく、理由がない。

5  また、原告らは、金ケ谷の土地の南側にある私道は他人の栗林であるから権原なくして他人所有地内の該私道を通行することは違法であり、金ケ谷の土地の残地収用地は袋地となる旨主張する。なるほど、保土ケ谷バイパスが建設されることにより、金ケ谷の土地の残地収用地から東側に出られなくなることは認められるが、山林管理のための立入りは、居住の用に供する宅地などへの出入りと異り頻繁に行われるものではないから、隣地所有者の土地に通路がある場合には、一応の挨拶をする必要はあるとしても、これを通行することを拒絶されることは社会通念上考えられないことであるし、仮に隣地所有者に通行を拒絶されるとすれば、右私道上に囲繞地通行権が認められると解せられるから、原告らの右主張は理由がない。

四  本件処分の適法性

1  当事者間に争いのない本件収用地の補償額による譲渡価額から取得費、譲渡費用を控除すると、昭和四八年分の所得は原告豊子については七〇〇万二八三〇円、原告については二一九万二七六〇円の分離長期譲渡所得があったことが認められ、従って原告の所得控除のうち配偶者控除は認められないこととなる。

そして、原告豊子については基礎控除二〇万七五〇〇円を差引き、国税通則法第一一八条第一項の規定を適用して一〇〇〇円未満の金額を切り捨てた六七九万五〇〇〇円が課税所得金額となり法第三一条により右分離長期譲渡所得に対する所得税額を計算すると一〇一万九二〇〇円となり、原告の分離長期譲渡所得に対する税額は三二万八八〇〇円となる。原告の総所得は配偶者控除の否認により二〇万七五〇〇円の増額となるから、その為に納付すべき税額は所得税法(昭和四九年法律第一五号改正前のもの。)別表第七により計算すれば別表3更正欄記載のとおり四万九六八〇円となり、原告の納付すべき税額は三七万八四〇〇円となる。

2  また、原告らが、右譲渡所得については税額の申告をしていないこと当事者間に争いがなく、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて国税通則法第六五条第二項に規定する正当な理由があるとは認められないから、過少申告加算税を納付すべき義務があり、同法第六五条第一項、第一一八条第一項、第一一九条第四項の規定を適用して過少申告加算税の額を計算すると、原告豊子については五万〇九〇〇円、原告については一万八九〇〇円となる。

そうすると、右と同旨にでた本件処分は適法であり何ら違法の点はない。

よって、原告らの本訴請求はいずれも理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条中第九三条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小川正澄 裁判官 三宅純一 裁判官桐ケ谷敬三は、転任につき、署名捺印することができない。裁判長裁判官 小川正澄)

別表1

(一) 収用土地

所在 横浜市旭区今宿町

<省略>

(二) 残地収用土地

所在 横浜市旭区今宿町

<省略>

持分 原告豊子 3/4

原告   1/4

別表2

分離長期譲渡所得の明細

(一) 原告豊子

<省略>

(二) 原告

<省略>

別表3

原告の課税経過表

<省略>

ただし、金額の単位は円

図面1

横浜市旭区今宿南町2172-8他

横浜市旭区今宿町 2172-4他 横浜市旭区役所備付公図写S=1:600

<省略>

図面2

横浜地方法務局神奈川出張所備付図面写

<省略>

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